考察

胃ガン予防

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論文

1994年に米国でピロリ菌が認定され、2000年には日本でもピロリ菌の除菌が開始された。

しかし、日本では毎年約5万人もの人が胃がんで死んでいます。

日本人は昔から胃酸の分泌が少ない胃弱であるが、胃がんの99%はピロリ菌感染が原因で、日本人の体質の問題ではありません。

検査を受けていれば、ガンになる確率は激減するし、事前に予防さえすれば、この5万人は死ななくてすむ可能性は高いと思う。

日本人の死亡原因は第一位がガン、第二位は心疾患、第三位は肺炎、次いで脳血管疾患、ガンのなかでも胃ガンは肺ガン、大腸ガンに次いで3番目に多いガンである。

ピロリ菌は、人間の胃の粘膜層や粘膜表面に棲み、体に6本の前後の鞭毛があり、これを高速で回転させて胃のなかを泳ぐ。そして自分を強酸の胃液から守るためにウレアーゼ酵素を出して周囲をアルカリ性にしている。また、ピロリ菌が生成・分泌する毒素やアンモニアにより胃の粘膜上皮が傷ついて胃炎や潰瘍が生じる。これが繰り返されることにより胃ガンに進展する。

そもそもピロリ菌は、1983年にオーストラリアのロビン・ウォーレンとバリー・マーシャルによって発見された。それまで「強塩酸の状態では細菌は住めない」と考えられていたが、1979年ごろに「胃の中に螺旋状の細菌がみえる。とくに胃炎の患者にそれが多い」とウォーレンが発見した。マーシャルは内視鏡で自分の胃の中にピロリ菌がいないことを確認した後、自らピロリ菌を飲んで胃炎になるという体を張った実験を行い、その仮説は正しいものとなった。彼らは2005年にノーベル賞が贈られ、胃炎や潰瘍の原因がピロリ菌による感染症だった事実は世界的に大きな話題になり、その後の研究で胃ガンの原因であることが判明した。しかし、日本では医療関係者には知られたものの現在に至るまで10年以上認知度が低いままである。

ピロリ菌は、今の日本では自然環境にほとんどいません。日本の大学や研究所が全国の井戸水やため池など、水質調査しても出てきませんでした。ネパールやインドなど、特にガンジス川などはピロリ菌の宝庫で、インド人の感染率は高く、20代の人は9割以上ピロリ菌を保持している。しかし、インド人は胃酸分泌が高いために胃炎や胃潰瘍になりにくく、十二指腸潰瘍が多いのも特徴である。

日本におけるピロリ菌の感染率は、20代で10%以下、30代で15~20%、それが60代になると50%以上になり、年配の人ほど感染率が高い。

上下水道の普及率が80%を超えたのが1970年、それ以降に生まれた人は感染率が低いが、上下水道が完備されていなかった時代に生まれた今の60歳以上の人たちは感染率が高い。

日本人の胃ガンの発症率は欧米諸国の約5倍にものぼる。

一口にピロリ菌といっても地域によって差がある。たとえば日本や韓国のピロリ菌は、欧米と比べて強力で、胃ガンになるリスクが高い悪玉菌です。欧米の胃の中にピロリ菌がいたとしても、胃酸の分泌が多く、ピロリ菌自体も弱いので、起こす病気は十二指腸潰瘍が多く、潰瘍になってから除菌しても遅くないという。それに対して、日本や韓国の胃の中にピロリ菌がいる場合は、高い確率で胃ガンを作る。また、同じ日本でもピロリ菌の分布に地域差があります。

胃ガンの死亡率が一番低い県は沖縄県で、胃ガン死亡率の高い青森県や秋田県などは、塩分の濃い食事から胃ガンが多く沖縄は塩分が少ないから胃ガンが少ないと言われていた時代もあったが、実は食事や気候が影響しているのではなく、「ピロリ菌の種類が違う」という説が正しい。沖縄の人の胃の中にいるピロリ菌は胃ガンを起こす毒性が少ない欧米型のピロリ菌が多い。

韓国も日本と同じく悪玉ピロリ菌感染者が多い。胃ガンの検診受診率は10年以上前まで日本と同じくらいだったが、ここ数年で50%と非常に高くなり、早期発見をして、胃ガン死亡者を劇的に減らすことに成功している。韓国は、内視鏡でもバリウムでも、どちらでもいいので2年に1度は検査を受けなければ胃ガンの医療費が高くなる仕組みを実施したところ、受診率が大幅に上がったそうだ。

一方、日本では検査はバリウムか胃カメラかどちらがいいか、という論議が長く続き、2015年になってやっと内視鏡も胃ガン検査として認められた。毎年5万人も死ぬのに、日本の胃ガン検診受診率は10%位である。

日本の医師たちは世界中に医療技術を教えに行っているくらいレベルが高く、内視鏡機器もほとんど日本製だというのに、予防の面では世界に遅れをとっている。

もちろん難しいオペを成功させる技術やその普及も大切だ。しかし、より大きな視点から見れば、病気になる前の段階に簡単な検査で早期発見・早期治療を促すことを国として普及させることのほうが重要である。

また、海外ではこのような研究もあります。中国の報告では3000人以上を対象にして、15年の経過を追ったところ、除菌した人のほうが胃ガンの発生が抑えられた。同じような大規模研究は欧州でも進行中で、結果が待たれている。

日本はピロリ菌感染率の低下から、長期的には胃ガンの発症は自然と減少していく。しかし、いま現在ピロリ菌に感染していて、将来的に胃ガンになるかもしれない人がまだ多数いるということが問題だ。しかもピロリ菌がいる本人が胃ガンを発症しなくても、子や孫に感染させてしまって、その子孫が胃ガンになるということも考えられる。

除菌してピロリ菌を退治することで、将来胃ガンになる確率は格段に減る。若いうちに除菌すればさらに予防の確率は高くなる。

除菌には抗生剤を2種類と、胃酸を抑える薬の合計3種類を1週間飲む。

1次除菌で7割が除菌されるが、そこでダメだった場合も、2次除菌で98%除菌できる。いずれにしても100%ではないので除菌をしたら、成功したかどうかを呼気試験や便検査などを受けて確認することが重要だ。

2013年からは潰瘍などがなくても、ピロリ菌に感染した全員が健康保険で除菌できるようになっている。ピロリ菌の除菌、胃炎で健康保険が使えるのは、世界中でも日本だけである。なぜ認められたかというと、胃ガンになったあとのほうが、圧倒的にお金がかかるからだ。手術、抗がん剤治療などに比べると、除菌したほうが安上がりだと最近になって国が認めた結果だ。

しかしよく注意しなくてはならないのは、胃炎が進行してからの除菌は胃ガンになるリスクを30~40%減らすことができるに過ぎないということだ。ピロリ菌を除菌したら絶対に安心だと勘違いしてしまう人がいる。ピロリ菌の除菌をした人は安心して健康診断で胃カメラを断る場合がある。それで結果として発ガンに気づかず、胃ガンの発見が遅れて亡くなってしまう人もいる。除菌による胃ガンの予防効果は100%ではないので、ピロリ菌検査で陽性反応だった人は、除菌後も定期的な内視鏡検査はやはり必要だ。最低でも1年に1回くらいは病院で確認してほしい。

年齢が上がれば上がるほど、除菌後もガンになる可能性がある。日本では内視鏡の技術が優れているので、早期に見つかれば必ず治る。

除菌をする、そして陽性ならフォローする。その両方が大事だと思う。

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